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戦場に響く鈴の音
第12章 混乱
「年貢の納め時という言葉をご存知ですか?」
馬上から俺を見下ろしながら淡々と語る雪南に向かって輿の窓を乱暴に閉めてやる。
御館様から婚姻の話を受けてから3ヶ月という時が過ぎた。
笹川の娘である彩里(あいり)を天音に迎え入れる準備は現西元城、城主である風間 直愛の手で着々と進められて来た。
当の俺は燕に留まり、鈴の寺子屋の卒業までは動けぬとか、老体である義父の体調が悪いからと言い訳をしては天音入りを引き伸ばす毎日だったはずなのに…。
「これは天帝のご意向である。」
という宇喜多が用意した大名行列の輿に無理矢理に押し込められてしまい天音へと行軍中の身と成り下がっている。
向かう先は自分の領地だと言うのに、共を許されたのは雪南と小姓である鈴のみというおかしな大名行列で雪南の嫌味は俺の神経を逆撫でするだけでクソの役にも立ちはしない。
この婚儀には俺の不安定な立場を安定させる意味も含まれる。
幾ら、大城主である御館様が認めた西方領主の嫡男とはいえ、伴侶も持たずにフラフラしてる俺を認める家臣など居はしない。
されど、この婚姻で西元を治める嫡子が出来れば、その子は次期西方領主として天帝までもが認めた存在であり、その親である俺が西方領主として認められるのは当然という流れになる。
蘇としては由との講和は形だけであったとしても、今暫くの平和を齎す良き条件であり、今後の黒崎の立場を安定させる絶好の機会であると婚姻を押す者は居ても反対をする者は誰もいない。
義父だけは
「神路の判断に任せる。」
と俺の気持ちを尊重はしてくれるが、事が天帝の決定である以上は表立っての反対が出来る立場にはない。