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戦場に響く鈴の音
第12章 混乱

黒崎としては俺が笹川との間に嫡子を成す事を望んでいる。
蘇としては嫡子はどうでもいいが俺が西元を治める領主に治まる為には笹川との婚姻は避けられない。
まさに年貢の納め時だと笑うしかない状況で俺が乗る輿の片隅で踞ったままの幼子に視線を向ける。
あの日から鈴は俺を避けている。
寺子屋の卒業前だからと義父に自分の部屋を貰い受け、俺との寝食すら共にしなくなった。
今回の天音入りも嫌がる鈴を俺の小姓なのだからと雪南が半ば無理矢理に連れて来た。
寺子屋を卒業すれば俺の傍に居られるとか言ってたのは、ついこの間の事なのに…。
狭い輿の中で鈴は俺を避ける様に、小さな身体を更に小さくして顔を伏せたまま踞る。
「鈴…。」
僅かでも俺が鈴との距離を詰めれば、今にも輿から飛び出しそうな勢いで鈴が身体をビクリと震わせる。
ゆっくりと擡げる頭…。
ギラギラと光らせる2つの瞳…。
あれほどまでに美しかった顔なのに、今は頬が痩けて病的なまでに痩せており、大きな瞳だけが輝きを失わなかった為に、その異様さを浮き彫りにしてる。
「鈴…、飯は食ってるのか?」
俺の問いに応えるように瞳が伏せられて光が消える。
「鈴…、俺と天音に行くのは嫌か?」
一方的な問い掛けを続ける。
この3ヶ月、鈴は誰とも口を聴かない子へと戻ってしまった。
始めは、仔猫の気まぐれだろうと誰もが高を括っていた。
『婚姻によって、自分の主が自分だけのモノにならないからと拗ねてるだけでしょう。鈴はまだ幼子ですからね。』
雪南は鈴の態度をそう診断したが、ここまで来ると拗ねてるというレベルを超越してる。

