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戦場に響く鈴の音
第13章 捕縛
俺の独身最後の宴だという割には広間に並ぶ家臣の表情は神妙な面持ちをする者ばかりが並んでる。
雪南は頭が痛いと言わんばかりに何度も首を振り、直愛は落ち着きを失くしたように、ソワソワと辺りを見渡してばかりだ。
相変わらずなのは茂吉だけで上座に座る俺の前へと進み出て、一礼だけをしたと思えば
「まあ、旦那。今夜は無礼講という事で…、目一杯に飲み明かしましょうや。」
と酒の入った盃を俺の手に押し付ける。
そんな茂吉を嫌そうに睨み付けるのは俺の膝の上を偉そうに陣取っている小姓だけという異様な状況の宴だ。
「神路…、飲み過ぎは良くない。」
茂吉からの盃を受け取った俺に口を尖らせる鈴の頭を撫でてやる。
「明日には天音に入るのだから、少々の飲み過ぎは許される。」
「鈴は早くおっ父が居る燕に帰りたい。」
天音に入れば俺は婚姻の儀を執り行い、嫁を娶る事になる。
形だけの嫁とはいえ黒崎の嫡子を産むのは、その女だと理解をした鈴は不機嫌な表情を隠しはしない。
真っ直ぐに自分の感情だけを俺にぶつける鈴を快く思わない連中が怪訝な表情で俺と鈴を眺めてる。
そのうちの一人が腰を上げて俺の前までやって来る。
「黒崎様へ、此度の婚礼の御祝いを申し上げたく…。」
畏まった口上を述べて臣下の礼で俺の前に跪く男に俺の方は全く見覚えがない。
「宇喜多の者か…。」
俺の婚礼の為に黒炎より用意された大名行列は何故か宇喜多の家臣ばかりで編成されている。
その為に俺について来た蒲江の家臣や風間の家臣は神経を尖らせてばかりになるから、せっかくの宴を開いたところでギスギスとした空気だけが漂う事になる。
黒炎の宴じゃ、こんな空気は当たり前の事だが大城主である御館様はよくこんな状況を上手く治めてるものだと感心する。