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戦場に響く鈴の音
第13章 捕縛
その為には、大河が支配する蘇の全ての人間に俺が黒崎だと認めさせてやる。
手段など選んではいられない。
それが鈴にとっては辛い出来事になるとしても、俺は俺のやり方で鈴を守ると決意する。
夜が明ければ天音に向かう。
俺を愛して傍に居ると決めた鈴には試練となる夜明けが来た。
「後は…、任せたぞ。」
温泉街を出立する大名行列を組み直した雪南が茂吉に言い含める。
「任せて下さい。こいつらを柊まで送り届けたら、ご領主様を伴って、すぐに天音入りを果たします。」
茂吉は雪南に与えられた任の確認をする。
宇喜多の代行であり、婚礼の進行役だった滝沢と、宇喜多の家臣の一部が黒崎は20万人将、羽多野の名の元に捕縛され、燕へと送り返される事が決定した。
茂吉の役目は、ひとまずは滝沢達を柊の寄子(街警備)に身柄を引渡す事と、嫡男の婚礼の為に柊へと上がって来た黒崎の現領主である義父の警護となる。
滝沢達は黒炎から派遣される寄子に引き渡された後、燕へ戻されて事の審議が明らかになるまで身柄の拘束を受ける。
宇喜多の仕切りを嫌う黒崎は、滝沢の身柄が明らかになるまで蒲江を婚礼の進行役として立てた上で、此度の婚儀を強行する。
宇喜多の家臣が半分以上も減った大名行列は、羽多野が茂吉に預けた兵を補充する事で見栄えだけは保たれている。
「面倒だから俺と鈴も馬に乗ろうか?」
天音までは後半日という距離だ。
馬なら昼前には天音に駆け込める。
そう提案する俺を雪南が冷たく睨む。
「此度の婚姻の儀…、貴方が新郎で主役です。黒崎の名を辱める様な姿で天音入りなど絶対にさせませんよ。」
要するに黒崎の見栄の為に、俺は大人しく輿に乗って領民に愛想だけを振り撒いてろと雪南が言う。
「出立する。」
雪南が行列を率いて馬を出す。
天音までは退屈なだけだと輿の中で欠伸をする。
狭い輿の中で穏やかな表情をする鈴は大人しく俺に寄り添い、駄目な主を見習うように小さな欠伸を繰り返していた。