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戦場に響く鈴の音
第14章 護衛
天音に着き、黒崎の別邸へと入るなり天音湖が一望出来る張り出しへと飛び出た鈴が怯えた表情で俺を見る。
「どうした?鈴…。」
そう声を掛けてやれば鈴が俺の袴にしがみつく。
「神路…、山が…燃えてる…。」
今は天音湖の向こう側に見える山々が紅く色染める季節…。
「紅葉だ。後、ひと月もすれば天音は雪景色へと変貌する。その頃には義父もこちらに到着する。」
「おっ父が来るのか?おっ父も天音で暮らすのか?」
「婚儀が終わっても、しばらくは鈴の傍に居てくれる。」
どうせ春までは動けない。
どの国でも冬越しは国として大変な時期になる。
実り豊かな秋に無理な戦などを仕掛けて人手を失えば、思う様な冬越しが出来ず民草を飢えで失うだけとなる間抜けな大城主として後の語り草にされる。
有難い事に蘇の国は冬を比較的、豊かに過ごせる国となっている。
燕より南に位置する奥州の領地や東側にある宇喜多では冬でも雪は稀にしか降らない。
そして、燕の北側には神との国境地に大河の家臣である汐元(しおもと)の領地があるが、蘇から神へ向かう全ての商人と荷物は、この汐元の領地を抜けなければならない為に、実りの秋は汐元の稼ぎが跳ね上がる時期だとも言える。
神との国境が白銀山脈に阻まれる由が夏のうちにと蘇の西方を狙うのは、その為でもある。
神の臣下国、4ヶ国の中で一番貧しいのが由だ。
この冬を乗り越える為に起こした戦に敗戦した笹川は苦渋の決断を下し黒崎との婚姻を承諾するしかなかった。
黒崎との婚姻関係が続く限り、由の中でも笹川領地だけは黒崎からの支援を受ける事が出来る。
蘇は笹川が持つ兵力を无に向けて使いたいのが本音だ。
无が由との小競り合いを繰り返してるうちは无から神へ入り込む野盗が減り、蘇は神のご機嫌取りにしかならない野盗討伐という余計な兵力を割かずに済む。