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戦場に響く鈴の音
第14章 護衛
この先は、そういった政の流れを見極めて黒崎の立場を守る事を考えていかねばならぬ。
「神路…。」
考え事をする俺の方へと小さな手が伸びて来る。
両手を広げて抱き上げろと言わんばかりの仕草を見せる鈴を抱き上げれば、すぐ様に鈴が俺の口へ唇を押し付ける。
「だから…、どうした?鈴…。」
「落ち着かない。前の天音とは全然違う。もう、鈴が知ってる天音じゃないみたいだ。」
鈴が天音で過ごしたのは夏の一度だけだ。
とくに天音は季節の変化がはっきりと浮き出る土地になる。
春は山が桜でピンク色に染まり、夏は濃い新緑、秋は紅葉、そして冬は雪で真っ白な景色となる。
そんな風に色鮮やかに変化する山を写し出す鏡の様な天音湖も季節毎に表情を変える事で有名だ。
そんな些細な変化に怯えるほど、鈴が神経質になってるのだと感じるから背中を撫でて宥めてやる。
既に婚姻の儀は始まっている。
仕来りに見習って漢は女とひと月余り、床を共にし生活をする。
殆どの武家や貴族は見合いが当たり前だという夫婦であるから、破綻をすればお家存続の危機を招く事になりかねない。
その為に設けられたお試し期間が、いわゆる婚姻の儀の始まりだ。
その、ひと月で夫婦としてやっていけないと判断すれば異議申し立てを行い、進行役に仲裁をして貰う。
そして仲裁で夫婦両方の意見を聞いた進行役が婚儀として成立しないと決定を下せば婚姻そのものが無かった事とされてしまう。
黒崎が宇喜多側の進行役を嫌う理由はそこにある。
笹川とはあくまでも政略結婚であり、俺の嫁となる彩里は人質としての価値が無ければ意味が無い。
ひと月の間に僅かでも情勢が変われば、宇喜多は平然と笹川を切り捨てるつもりで進行役を買って出た。