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戦場に響く鈴の音
第17章 自慰
勝手に目が覚めた。
こんな事は生まれて初めての経験ではないかとか、くだらない事を考える。
今朝は、夕べのまま鈴がまだ俺の床の中で眠ってる。
あどけない寝顔…。
主が起きても、まだ起きない小姓の額に口付けをする。
「んん…、かみ…ふぁ…。」
寝ぼけた仔猫が小さな欠伸をしながら大きな瞳を開く。
「まだ…、寝てろ。」
鈴の髪をひと撫でして床を出れば、目が覚めた鈴が飛び起きる。
「神路…。朝ご飯…。すぐに台所で用意させる。」
変なところだけは責任感が強く、慌てる鈴だが、無理に立とうとするその脚は微かに震えている。
朝飯と言ったところで、もう昼に近いと言える時間だと思う。
「俺の事は気にするな。鈴は、もうしばらく寝てて構わぬ。」
自分を壊してまで俺の傍に居たがる鈴とはいえ、どうせ俺は鈴を待たせるだけの漢になる。
「ごめん…。」
「鈴が謝る必要はない。俺は少し出掛ける。戻ったら昼飯を一緒に食えば良いだけだ。」
鈴だとて、俺の状況は理解をしている。
理解をしていても、感情が納得をしないからと悔しさで柔らかな唇をキュッと噛み締めて俯いてしまう。
後ろ髪を引かれる想いとは、こういう感覚なのだろうと思いながらも着物を羽織り、帯を適当に締めながら寝室である奥部屋を出て、廊下側に繋がる部屋から部屋へと渡り廊下へと辿り着く。
鈴を拒否するかのように何枚も襖戸を閉めた。
廊下の一つ向こう側にある部屋では雪南が俺を待っている。
俺は俺のやるべき事をしなければならない身であり、それが終わらぬ限り、本当の意味で鈴が俺の為に笑ってくれる事はないのだと思うだけでため息が出る。