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戦場に響く鈴の音
第17章 自慰



「雪南…。」


雪南が待つ部屋の戸を開けば、部屋の主である雪南ではなく、多栄が俺に向かい頭を垂れる。


「多栄、鈴はまだ寝かせてやってくれ…。」


俺がそう告げると机に向かっていた雪南が顔を上げて俺を見る。


「黒崎様の方は?」


飯にするのか、風呂にするのか…。

俺の1日の行動を雪南が聞いて来る。


「先に離宮へ行き、それから風呂だ。昼は鈴と食う。」


どうせ離宮で汚れる。

どうでもよい予定はさっさと済ませたいと示せば、雪南が立ち上がり


「では、参りましょうか…。」


と言うなり俺の前を歩き出す。

進行役を須賀に押し付けた今の雪南は離宮での俺の護衛役だけはやるつもりでいるらしい。

自分の嫁に会うのに護衛が必要だとか…。

彩里が待つ離宮に行くのが面倒だとしか思えない。

長い廊下を歩きながら、くだらなくて欠伸が出る。


「だらしない…。」


そう呟く雪南が眉を顰める。


「そりゃ…、面倒臭えもん…。」

「夫婦で寝室を共にしない以上、この方法しかない事くらいは黒崎様でもわかっておられるのでしょう。」

「はいはい、十二分に理解をしとります。」


俺がふざければふざけるほど、雪南は眉間の皺を深く刻む。

ひと月の夫婦生活が破綻すれば、この婚姻は無効となる。

無理矢理に婚姻を維持しようとするならば1日1度は彩里の部屋に俺から押し掛けてやるしか方法がない。

昨日の状況ならば、彩里が体調を崩し伏せてるという言い訳でもして面会拒否になったとしても不思議ではないのだが、そういう連絡が今朝は離宮から来ていない以上、俺は不機嫌な雪南を連れて離宮へと通う必要がある。


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