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戦場に響く鈴の音
第17章 自慰
たかが物資…。
それを渋る直愛の考えが理解出来ぬ。
「俺の嫁に出すものは無いと言いたいのか?風真…。」
直愛の真意を問う。
直愛は風真として、余りにも中途半端な行動が目立つとの報告も羽多野より受けている。
「黒崎様のお言葉に背くつもりはございません。しかし、今の笹川には僅か20万の兵しか存在せず、そこへ必要以上の量の米を与えるという事は笹川に再び西元への攻撃を促す結果になるとしか思えません。」
雪南から受けた命令に反発してるのだと伝わって来る。
送る米の量を決めたのは雪南だ。
その命令の意味が理解出来ぬと直愛が口を尖らせる。
「笹川の兵士に与えろとは言ってない。」
「ですが…。」
「笹川が持つ領民に与えろと言ってるのだ。」
「民にですか?」
笹川の兵士に与えれば、直愛の言う通り、兵士達が戦を仕掛ける機会を与えるだけになる。
だが、雪南の考えは違う。
笹川が抱える民に冬越しが出来るギリギリの米を黒崎の名でバラ撒けと言ってるのだ。
領民が飢えて野盗に堕ちれば、その責任は笹川の夫である俺へといずれは回って来る。
今のうちに笹川の領民に黒崎が居る限り、笹川の領内は安全だと示す事が笹川の内戦を早く終わらせる事へと繋がると雪南は先を見越した上で直愛に命令を出した。
それが見えない直愛が悔しげに歯ぎしりをする。
「雪南殿はそこまでの考えで…。」
「なあ、直愛…。頭で考えるな。感覚で捕らえろ。蒲江は俺達の様な凡人に理解が出来る一族じゃないからな。」
「畏参りました…。早急に笹川領地へ物資を出す手配をします。」
何故か俺に背を向ける直愛の背中を見てるだけで、俺の首の付け根がチリチリとした痛みを感じる。
まだ風真に治まり切らない直愛の事を考えてやる余裕など、この時の俺には全くなかった。