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戦場に響く鈴の音
第18章 打掛
天音へ来て、3週間以上が過ぎた。
後5日もすれば婚礼の儀だと思うだけで胃が痛くなる。
「神路…。」
鈴の小さな手が俺の頬に触れる。
心配そうに俺の顔を覗き込む大きな瞳が金色に輝き、情けなく笑う俺の顔を映し出す。
その瞳から眼を逸らせば、俺を振り向かせようとする小さな唇が俺の唇に押し付けられる。
毎朝がこんな感じだ。
彩里の元へ立ち去る俺を引き止めようと鈴は必死になり、最近では何故か彩里までもが俺を離宮に引き止めようと必死になる。
『夫婦として、こちらで生活をしませぬか?』
母屋へ帰ろうとした俺の袖を握った彩里が呟いた言葉…。
その呟きに答えもせず、俺は鈴の元へと帰って来た。
それでも夜が明ければ俺は彩里の元へ通う夫となるとわかっている鈴は俺の愛情を確認するまでは俺から離れようとはしない。
「失礼致します。」
寝室の襖の向こうから声がする。
鈴がゆっくりと俺から唇を離し、襖を睨む。
「雪南か?入れ…。」
その鈴の頭を撫でてから襖に向かって返事を返し、とりあえずは裸のままの鈴に着物だけは羽織らせる。
僅かだけ開く襖…。
半分ほど雪南の顔が見える。
「もう起きておられましたか?」
最近は雪南に起こされる前に起きる俺を雪南が笑う。
「要件を言え…。」
多分、館の主としての自覚ってやつが、勝手に俺の中で培われているのだろう。
彩里という伴侶を得た今は、そうやって俺の暮らしが微妙に変化しつつあり、鈴はそんな俺が嫌だと悲しげに眼を伏せる。
「一つは離宮からの言伝で、昨夜より姫が月の障りで伏せられたとの報告が…。」
「なら、今朝は花と菓子だけを送っておいてくれ…。」
「承知致しました。」
彩里の生理が来た。
それは、この3週間の俺の行動が無意味だったという連絡であり、黒崎としては有難くない連絡だ。