この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
戦場に響く鈴の音
第18章 打掛
有難くない連絡ではあるが婚姻の儀までは彩里に会う必要もなくなり鈴の傍に居てやれる。
少しホッとした俺に雪南が
「もう一つの報告ですが、昨夜にて水野から飛ばされた早馬の報告によれば御館様が明日にでも天音に入られる距離までお越しになったそうです。」
と伝えて来る。
「義父がか?」
「おっ父が来るのか?」
はしたない俺の小姓は着物の前を肌蹴させたまま、雪南が控える部屋の襖を大きく開く。
「こらっ!鈴っ!」
慌てて着物を羽織り、鈴を捕まえてから着物の帯を締めてやる。
こんな状況に慣れている雪南だけが顔を横に向けたまま淡々とした口調で報告を続ける。
「つきましては、御館様を迎える準備の為、本日は柑へ船を出す予定であり、せっかくですので鈴を少しばかしお借りする事は可能でありましょうか?」
突然の雪南の申し出…。
柑へ船を出す。
白銀山脈側にある柑は、この天音の屋敷から湖畔沿いの道を歩けば半日は掛かってしまうほどの距離があるが船を使えば、その半分の時間で辿り着く。
戦で傷付いた兵士達の保養の場で有名な温泉観光街の柑は西方領地では柊に次ぐ大きな街であり、この屋敷に必要な物資は全て柑から仕入れている。
義父が来るから鈴をその柑へ連れて行きたいと申し出る雪南の言葉に少しばかし戸惑う。
「鈴を柑へ?」
「柑?」
俺の質問に鈴までもが質問を被せて来る。
「黒崎様の婚姻の儀の準備は滞りなく済んでおりますが、小姓である鈴の冬越しの準備は全く出来ておりません。幸い、寺嶋は柑に屋敷を持つ者であり、多栄が鈴の準備を手伝えると申しております故、今日一日は鈴を連れて屋敷を出る許可を頂きたい。」
俺と鈴の質問には、いちいち答えてられないと雪南が自分の要件だけを一方的に告げる。