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戦場に響く鈴の音
第2章 登城
俺が黒崎に引き取られると決まった日から幼い雪南は一人で燕の黒崎家に務める事となった。
そういう意味では俺に対して義父よりも雪南の方が何かと口煩く俺の所業を咎めて来る。
「あの小姓は?」
「鈴なら当然、留守番だ。」
「筆子にするおつもりは?」
「あるに決まってる。」
「ならば登城の必要が…。」
「今すぐは無理だろ…。」
「そのつもりで充分に教育をなさいませ。」
登城の道中はずっと雪南の小言を聞く羽目になる。
筆子とは寺子屋で学ぶ子の事を言う。
黒炎の敷地内にある寺子屋では読み、書き、そろばんを基本とする学を学び、道場では武となる剣術を学ぶ。
その黒炎の寺子屋に通うには大城主である御館様に目通りを願い、許しを受ける必要がある。
黒炎の寺子屋は筆子に教えてる手習い師匠(教師)が特別であり武家の子でも優秀な子だけが通える。
俺の場合、基本を御館様より直接に仕込まれたからこそ寺子屋に入る時はさほどの苦労がなかった。
鈴の場合は…。
考えただけで恐ろしい。
人の話を聞かない鈴が御館様の集めた特別な師匠を怒らせるのにさほどの時間は必要ない。
だとすれば黒炎の外にある庶民用の寺子屋へ通わせるべきか?
鈴のように目立つ子ならば一刻もせずに人買いに拐われるに決まってる。
鈴がまともな生活と知識を持たぬうちは黒崎の屋敷から出せるはずが無かろうと雪南の嫌味に振り回されてる自分にイライラとする。
黒炎城の城門が開き、輿ごと登城する。
輿から降りた俺の後ろに馬から降りた雪南が付く。
「これ以上の話は帰ってからだ。」
「今日中に帰れればよろしいかと…。」
最後まで雪南は嫌味を絶やさない。
「黒崎様、奥州様のご登城っ!」
門番の伝令が黒炎に木霊する。
今ひと時は鈴を忘れて気を引き締める。
ふた月振りの御館様への目通りだ。
こんなに落ち着かない目通りはこの黒炎に連れて来られて以来の事だと嘆くしかなかった。