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戦場に響く鈴の音
第2章 登城
直愛と共に風呂を済ませ直愛は客間へ行き、俺は自室へと向かう。
俺の部屋で、薄汚れたままの寝間着の上に俺の羽織を着ただけの鈴が物珍しげに辺りを見渡し部屋中を軽やかに駆け回る。
女中に手伝わせながら着替える俺に見向きもしない鈴に少し苛立ちを感じる。
「鈴、お前も湯浴みに行け。着替えは俺が子供の時のがあるから…。」
「鈴もお出掛けするの?」
「いや、鈴は留守番だ。」
「なら鈴はここで神路を待つ。」
「待つのは良いが湯浴みくらいしやがれ。」
鈴は無表情なまま俺の言葉を聞き流す。
ここへ来るまでのひと月、鈴は一度足りとて着替えをしようとはしなかった。
鈴の身なりは気になるが、早馬による伝令が既に御館様の元へと届いてる以上は俺や直愛は早めに登城する必要がある為に鈴に構ってる暇がない。
「黒炎に向かう。」
そう言って玄関へ再び向かえば俺と同じように正装に身を包む直愛も現れる。
黒崎は黒の直垂、奥州は深い緑の直垂と一門や位(くらい)の色で見分けが付く。
「神路…。」
出掛けに俺に声を掛けて来るのは義父だ。
「申し訳ございません。義父に頼みがあります。俺の部屋に小姓が居ます。俺が戻るまでそれの面倒をお願い出来ますか?」
「小姓?」
「梁間の奴隷小姓だった子です。」
皆まで言わずとも義父は頷く。
「神路の小姓として面倒を見てやれば良いのだな。」
「よろしくお願い致します。」
今は義父に任せるしかない。
登城の移動では輿(こし)となる為、俺と直愛は別々の輿に乗り、付き添い役の雪南だけが馬で輿に並ぶ。
雪南は黒崎の敷地内に離れの形として自分の家を持つ。
蒲江の本家は燕の西にある黒崎の領地内に屋敷があるが雪南は三男であるが故に俺の家臣として燕にある黒崎本家に留まる。