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戦場に響く鈴の音
第19章 強欲
張り出しの手摺りで頬杖を付いたまま、静かに波打つ天音湖の水面をぼんやりと眺めていた。
珍しく雪南が俺の盃に酒をついでから眼下に広がる天音湖へと視線を向ける。
「貴方には何が見えてるのですか?」
そんな事を雪南が聞いて来る。
「何がって…、お前と同じだろ。天音湖が見えてる。」
「同じだとは思いませんよ。黒崎様は人とは違う感覚で物事を捉えてるお人ですから…。」
「俺は至って普通だ。」
「とてもじゃないですが普通だとは言えません。」
涼しい表情でキッパリと言い切られると、ちょいとばかしムカつくとか思う。
「人を変態みたいに言うな…。」
今夜の俺は鈴が傍に居ないというだけで、いじけている。
盃の酒をクイと飲み干す雪南が冷ややかな眼を俺に向ける。
「それで…、貴方は何が気に入らないと言うのですか?」
初めて出会った日から俺の不機嫌の理由を単刀直入に聞いて来るのは、常に雪南だけだった。
御館様に噛み付き、雪南の兄である斎我にも牙を向けた俺に冷たい表情のまま、今と同じ事を雪南は聞いた。
その頃と変わらない俺は同じ言葉を雪南に返す。
「落ち着かないんだよ。俺が生きている路は本当に間違ってはいないのかとか考えても、結局、未来なんか誰にもわからねえから落ち着かない。」
そう言って、自分の盃の酒を飲み干せば普段はあまり飲むなと口煩い雪南が俺と自分の盃に酒を注ぎ込む。
「この婚姻が不安ですか?」
冷静さを失わない雪南の問い。
どう答えるべきかと迷いが出る。
「お前は…、嫁を貰う気があるのか?」
雪南はもう20歳になる。
例え、雪南であっても嫁を貰うとなれば不安くらいあって当然だろうと雪南に聞き返す。