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戦場に響く鈴の音
第3章 羽織
三の丸の通路を抜け、二の丸の奥へと向かう。
目指すは本丸にある謁見の間。
謁見の間の手前にある控えの間まで来れば俺と直愛の登城が小姓もしくは伝令兵により謁見の間の奥に座を構える御館様へと知らされる。
御館様が座る一段高い上座の手前にある下座には大城主大河に仕える家臣の当主が左右に別れてこの謁見を見張るように控えてる。
家臣の中には直愛の父、『奥州の獅子』直久も当然の如く存在する。
「西方領主、黒崎は嫡男神路。只今、西元平定の任より帰参致しました。」
控えの間の襖が開き謁見の間の間へ1歩踏み出せば臣下の礼を尽くし口上を述べる。
俺は右後ろで直愛も同じように礼を尽くした姿勢で控え御館様の言葉を待つ。
「堅苦しい挨拶は後にして黒崎、奥州の2人らこちらに並べ。」
久しぶりの御館様の声…。
並べ?
大河付き家臣が並ぶ末席に俺と直愛も並べと御館様が手招きする。
直愛は自分の父親の後ろに回り込んでから座り、俺は雪南を伴い末席に正座する。
本来の黒崎なら家臣が並ぶ一番の上座に座る。
だが引退前の義父はこの謁見に呼ばれてない。
何が起きる?
家臣の顔ぶれを見て考える。
「東方領主、宇喜多(うきた)様のご登城。」
謁見の間の外からでも伝令の声が聞こえる。
やられた…。
そう思う。
家臣の顔ぶれを見れば俺を黒崎と認めてない連中が半分以上は並んでる。
「東方領主、宇喜多。无の野盗討伐の任より只今帰参致しました。」
スッと通る声の持ち主。
若干20歳の若さで既に東方領主である宇喜多 秀幸(ひでゆき)が藤色の直垂の裾を靡かせて優雅に前へと進み出る。
義父はあくまでも大河家の筆頭老中であり、大河家家臣内であれば一番の立場にある。