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戦場に響く鈴の音
第3章 羽織
宇喜多は違う。
宇喜多家は蘇の国の宰相の地位を持つ。
大城主大河の家臣ではあるが蘇の政について宇喜多は決定権も一任されており、名実ともに大河の右腕として立てる立場の人間だ。
2年前には由との大戦で宇喜多前当主であった秀幸の父、秀隆(ひでたか)が負傷をした為に既に宇喜多現当主として名乗りを上げている男。
俺よりも前に御館様の小姓だった秀幸。
一昔前は神童と謳われ、今は蘇の国一の漢(おとこ)と言われるほどの美男子である宇喜多は御館様の妹君を正室に娶り、大河の信頼をも欲しいがままにしてる。
8年前に黒炎に来た俺は何をやっても秀幸を見習えと御館様に仕込まれた。
その仕込みは今尚健在であり、秀幸の姿を見ただけで俺の身体が硬直する。
「黒崎もだが、宇喜多はとくに手のかかる任だったと思う。此度の遠征、誠に大義であった。」
俺に対する賛辞というよりも、奥州に対する気遣いを含む言葉で御館様が惜しみなく秀幸を労う。
「自分は何も…。」
誉め言葉は当然のはずの秀幸が御館様の正面で正座したまま深々と頭を下げる。
宇喜多が御館様より課せられた任は神に侵入する无の野盗討伐だったはず…。
大河は蘇の国の大城主ではあるが元来は神の帝の配下の立場にある。
无という国は形だけ神の配下に治まってはいる国ではあるが、由との戦闘に明け暮れる為に国内の混乱は計り知れいほどまで進んでる。
その无から略奪だけの目的で野盗が神へ入り込む。
无の国では野盗ですら荒くれ者の无の大城主に雇われてるのではないかという噂が絶えない。
再三に渡る帝からの野盗討伐の要請を無視した无に対し、神の帝の威厳を示す役目として大河へ神国内に侵入する野盗討伐の任が下った。