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戦場に響く鈴の音
第20章 我儘
屋敷内を雪南が慌ただしく動き回る。
天音まで義父が連れて来た家臣達が使う部屋を振り分ける必要があるからだ。
宇喜多の家臣を叩き出したばかりの屋敷だというのに、再び新しい客人達の為に人で溢れた屋敷となる。
当然の事ながら、寺嶋のように黒崎での位が低い者は屋敷から出され、この屋敷に一番近い兵士訓練所の兵舎で寝泊まりする事となり鈴の護衛役である多栄だけが女中部屋へと移動する。
進行役である須賀は流石に屋敷から出る事が許されないが、自分よりも格上の家臣達には頭が上がらず、これはこれで、肩身の狭い思いを強いられる。
殆どの者が婚姻の儀が行なわれる当日までは船で柑に渡り、そちらの温泉旅館などを使用するが、義父の側近の者ともなれば屋敷に留まり儀に招待された客人として過ごす。
この屋敷は黒崎であり、俺の屋敷…。
つまり、客人に対する館主の饗に不備があれば、その責任は全て俺へと向けられる。
主である俺に恥をかかせるなど、絶対に有りはしないと張り切る雪南は一時足りとて同じ場所には居やしない。
「黒崎様っ!」
雪南を探して屋敷内をウロウロとする俺を反対に見つけた雪南が咎めるように呼び止める。
「何か…、手伝う事があれば…。」
館主としての振る舞いなど俺にはわからず、雪南に何かしろと言われる事を期待すれば
「ご自分のお部屋で大人しくするか、鈴のように御館様の部屋へ行って下さい。」
と殺気立つ雪南が低い声で俺を威嚇する。
あれから鈴は義父に拐われたまま帰って来ない。
義父に懐いた鈴と違い、義父の部屋へご機嫌取りのようにいそいそと出掛けられるほど、俺は義父にとって良い息子だとは間違いなく言い難い。
しかも、今は久しぶりに鈴と過ごす時間を愉しんでるであろうと推測が出来る義父の気持ちを思えばこそ、俺なんかが顔出す事を躊躇わずにはいられない。