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戦場に響く鈴の音
第20章 我儘
グズグズと義父の部屋へ行く事を躊躇う俺の胸ぐらを掴む雪南が更に殺気を上げる。
「今の貴方はこの屋敷で一番、邪魔な存在なのです。今は鈴の為に御館様の部屋へ行くか、離宮で貴方を待つ奥方のご機嫌を取りに行くか…、主として選びなさいっ!」
久方ぶりに雪南に怒られた。
「義父の部屋に行く…。」
どうせ離宮の彩里には、俺の名で義父が到着したと勝手に連絡が行ってるはずだ。
婚姻の条件として彩里は離宮から出てはならぬ決まり…。
義父は明日にでも離宮へ出向く事となるだろうから、俺の選択肢は否が応でも義父の部屋へ行く事しか残されていない。
だから雪南に背を向けて、ため息を吐く。
雪南は、そんな俺に構ってる暇は無いと忙しなく立ち去る。
昔から苦手だ。
義父の部屋に行く…。
たった、それだけの事なのに…。
義父は変わらず優しい笑顔で俺を迎え入れてくれる人だと、嫌という程にわかってはいる。
わかってても苦手なものは苦手だと俺の歩みは進まない。
ノロノロと亀のように廊下を抜け、屋敷の奥にある俺の部屋の前まで到着する。
逃げるのなら今だ。
俺は自分の部屋へ引き篭れば良いだけだ。
俺の部屋は館主の部屋であり、以前は義父の部屋だった。
今はここが俺の部屋であり、義父は館主よりも身分の高き者が使う部屋に滞在する。
義父よりも格上の扱いを受ける客人とは宰相である秀幸か大城主くらいだろう。
そんな部屋に滞在する人を無視するとか、昔の俺ならともかく今の俺には出来そうにもない。
「畜生…。」
もうガキじゃない。
たかが苦手だというだけで逃げるは恥だと腹を括る。
自分の部屋の前を抜け、奧殿に向かい歩き出す。