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戦場に響く鈴の音
第20章 我儘
それ故に、風真亡き今は羽多野を頼る者が後を絶たない。
さりとて、この先を考えるならば、羽多野の嫡子が羽多野のほどの強者と言えるのかどうかが、俺が新たに造り出す黒崎の命運を握ってるとも言えなくもない。
そいつを俺の代わりに、あの雪南が探ろうとしてる姿に笑いだけが込み上げる。
「人付き合いの苦手な雪南が…、主思いだのう。神路…。」
俺と同じ事に気付いて笑いを堪える義父が珍しく嫌味を言う。
「何の事だ?」
鈴だけが事情がわからずに頬を膨らませる。
「あの雪南が俺の為に頑張ってる姿が笑えるという話だ。」
「雪南なら、いつでも神路の為に頑張っておる。」
「はいはい、俺は頼りない主ですから…。」
「その通りだ。神路はもっとしっかりして、もっと葉っぱを食べられる大人にならねばならぬ。」
偉そうな鈴に肩を竦めれば、義父がほっほっと愉しげに笑う。
義父が愉しんでいる姿を晒すだけで宴の席に並ぶ家臣達の表情が和らぎ、穏やかな雰囲気に包まれる。
「なあ、神路…、今を楽しもう。お前には私や鈴がついている。少しくらい楽しんでも罰は当たらぬ。」
何かと考え事をしては眉間に皺を刻む俺に義父が諭す。
「楽しんでおりますよ。」
「そうかな?お前はこの宴の向こう側しか見ていない。一体、お前には何が見えている?」
雪南と同じ質問を義父にされるとは思ってもみなかった。
「何がとは?俺に見えるのは、この広間に並ぶ黒崎の家臣達の顔だけですよ。」
「相変わらず、嘘が下手な子だな。まあ、良い…。今夜くらいは楽しみなさい。」
この話に興味を失ったように義父は会話を止める。
ただ俺は義父の言葉の真意を求めて考える。
義父の為に行われた久しぶりの宴は尽きる事を知らぬかのようにいつまでも続き、鈴が小さな欠伸を見せ義父の膝で寝てしまうまで終わりを迎える事はなかった。