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戦場に響く鈴の音
第21章 円満
離宮への渡り廊下を義父がゆったりと歩く。
その後ろに俺と雪南が付き、更に後ろには進行役である須賀と義父の警護役としての羽多野までもが付き添う。
「だらしないぞ、須賀っ!」
夕べの宴で二日酔いを顔に出す須賀を羽多野が咎める。
「すみませんっ!すみませんっ!っ───…。」
須賀は情けない表情で痛む頭を無理矢理に振る。
「良い良い…、夕べは私も飲み過ぎた。離宮で神路の嫁に挨拶をする予定など、すっかりと忘れておった。」
悪い顔色で苦笑いをする義父に雪南が気を遣う。
「さすれば、この面会は御館様の体調を踏まえた上で後日に回しましょうか?」
雪南の心配に義父は笑うだけだ。
「いや、構わぬ。婚姻の儀の日まで余り時間がない。神路の父親として黒崎は挨拶もせぬ家なのかと思われても困る。」
「ですが…。」
「それよりも、たかが挨拶に向かうだけで、こちらの人数が多くはないか?なんなら私と神路だけが離宮に行けば良い事だ。」
二日酔いの須賀に気を遣う義父の言葉に羽多野が思い切り嫌な表情を見せる。
「離宮に住まうは笹川の娘…、御館様に万が一が起きれば蘇の危機となりましょう。」
寺嶋同様に羽多野が神経を尖らせる。
「笹川の姫は、そんなに恐ろしい姫なのか?神路…。」
義父の質問に俺だけがため息を吐く。
彩里は、違う意味で恐ろしい存在だと言えなくもない。
面倒臭く、可愛げもなく扱いにくいだけの姫…。
そんな文句を口にする前に一行は離宮の応接の間へと辿り着く。
「大袈裟に構えるほどの姫じゃないのは確かです。」
簡潔に説明すれば、応接の戸が音も立てずに開き
「お待ちしておりました。」
と嗄れた声がする。