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戦場に響く鈴の音
第21章 円満
顔中に深い皺を刻む小さな老婆が一行の中で雪南だけを威嚇するように睨みながら義父や俺を応接の間へと引き入れる。
まるで妖怪だな。
そんなイメージの老婆を初めて見る義父と羽多野が目を丸くしたまま部屋の中央へと突き進む。
この部屋には床に絨毯が敷いてあり、ソファーと呼ばれる長椅子や平たい机が置かれ、異国に来た様な感覚がする。
亡き黒崎の奥方のお気に入りの部屋だった聞く。
身体の弱い奥方がゆったりと過ごせるようにと大河様から送られた調度品を義父は懐かしげに見ながらソファーの背もたれを愛おしく撫でてから座る。
「お待たせ、致しました。」
応接にある反対側の扉が開きハスキーな声と共に現れた彩里は、相変わらず派手な打掛に身を包み男達を牽制しようと見下すように部屋を見渡している。
そのような彩里の態度に慣れた俺や雪南は見向きもせず、羽多野と須賀だけが彩里が放つ威嚇を感じる視線に向かってピリピリとした緊張感を醸し出す。
「申し訳ごさいません。せっかく大殿様であるお義父様がいらっしゃったというのに、こちらの離宮では台所を使う許可が下りませぬ故に、お茶の一つもお出し出来ませぬ。」
雪南への嫌味を込めた言葉を発した彩里はわざわざ俺の隣に座り弛み切った胸を腕の方へ押し付ける。
「いやぁ…、構わぬよ。そんなに長居をするつもりもないのでな。今日は婚姻の最後の確認の立ち会いに来ただけだ。」
とぼけた口調ではあるが、義父の言葉に緊張が走る。
「須賀…。」
雪南が呼び付ければ、慌てる須賀が義父との間に机を挟んだ状況で跪きひれ伏す。
「本日は進行役として、この場への参加をさせて頂く須賀 佳太と申します。先ずは此度の婚礼に誠にめでたいと御祝いのお言葉を述べさせて頂きます。」
雪南に教わり、かなり練習をして来たと思われる須賀が棒読みの台詞を吐き、婚姻の儀の最後の確認が始まる。