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戦場に響く鈴の音
第21章 円満
この鬼が姿を現す時、俺は義父も鈴もわからずに切り捨ててしまうのかもしれないと考えるだけで自分がとても恐ろしくて死にたいとまで思う。
「神路は…、鬼ではない…。」
小さな温もりが俺の身体に押し付けられる度に少しづつ自分の中で気持ちが和らいで来る。
あの時…。
義父が言った言葉を思い出そうとする。
『鬼は全ての人の中に居る。私の中にも鬼が居る。愛すべき者を失い自分勝手な思いだけで大切な人々を傷付けようとする鬼が私の中に居る。鬼には人の愛がわからぬ。だから誰かを愛しなさい。神路が誰かを愛して守りたいと願えば鬼は静かに眠る。私はお前を愛する事で自分の鬼を再び抑え込む事が出来るだろう。』
天音に初めて連れて来た俺の手を握り、義父がそう語ってくれた事を少しだけ思い出す。
そして、雪南と出会った。
雪南だけが俺の中の鬼を理解してやがる。
『貴方が鬼に負けた瞬間、私は刺し違えてでも貴方の中の鬼を破壊します。それが黒崎家の為ですから…。』
雪南の冷たい声で何故かホッと安堵した記憶だけがある。
俺が鬼になっても雪南が居れば義父や御館様を傷付ける事がなくなるという安心感が俺を落ち着かせてくれた。
「雪南になど、神路を切らせはせぬ。」
頬を可愛らしく膨らませる鈴が呟く。
「剣術の成績が悪い鈴に雪南を止める事など不可能だろ?」
「要は、神路の中の鬼が出て来ねば良いだけだ。」
「まあ、そうだな。」
「鈴は神路を鬼にはさせぬ。神路は神路のまま生きて鈴の傍に居れば良いのだ。」
偉そうな姫はそんな命令を俺にして口付けをする。
「誓え…、鈴の為に鬼はならぬと…。」
自分の着物の帯を解き、真っ白な肌を晒して全身で俺に訴える。