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戦場に響く鈴の音
第22章 初夜
「マジかよ…。」
不貞腐れて雪南を睨めば
「条件を書いた文を黒崎様が捨てるのが悪いのです。」
と俺の帯の脇へ飾り刀を刺す雪南が答える。
彩里の文など読まずに捨てる事くらいわかってたろ。
そう文句を言いたい俺の鼻先まで顔を寄せる雪南が
「今日一日だけは、辛抱して頂きます。この前のように決してキレたりはなさらぬように…。」
と俺に言い含める。
彩里が黒崎との婚姻を呑む為に出した条件は、先ず黒崎の家臣達の前で彩里が俺の妻であると晒す事と、屋敷を俺が留守にして空けぬ限りは一日に一度は必ず離宮へ俺が訪れて彩里を妻として扱う事だというものだった。
「ですから、本日の婚姻の儀は彩里姫が黒崎様に黒崎の妻として寄り添います。」
黒の正装に身を窶す俺を膨れっ面の仔猫がじっと睨んでる。
「鈴…。」
「心配するな。鈴はおっ父の傍に居る。」
フンと俺から顔を背ける鈴の頬を撫でて俺の方へと顔を向かせる。
「ごめんな。」
鈴と柑へ連れて行く約束すら果たせていない漢の為に、鈴は今日一日を屈辱の想いで過ごす事となる。
「鈴は気にせぬ。だから神路が謝る事などない。」
「けど、お前…、怒ってんだろ?」
「怒ってなどおらぬっ!さっさと行けっ!」
尖らせる唇に俺の唇が吸い込まれる。
雪南が頭が痛いというように額に手を当てて宙を見上げる。
「鈴…。」
「わかっておる…。」
「愛してる…。」
「早く行くのだ…。」
今にも泣きそうな仔猫を置いては行けぬと俺の足が動かない。
「早く行って…、早く帰って来て…。」
俺の背を押す鈴が切ない声でそう願う。