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戦場に響く鈴の音
第22章 初夜
そんな鈴を部屋に残して、雪南と俺は離宮へ向かう。
離宮への渡り廊下の向こう側には真っ白な花嫁衣裳を着た彩里が真っ赤な唇の端を上げて笑顔で俺を待っている。
「不束ではありますが、宜しくお願い致します。」
しおらしく彩里が花嫁としての挨拶をする。
「ああ、本当に不束だよな。」
俺の口からは彩里にそんな嫌味しか出て来ない。
「そんなに私が気に入らぬのならば、何故、神路様は意義の申し立てをなさらなかったっ!」
前回の事を蒸し返して彩里が文句を垂れる。
「お前を妻とする事には黒崎として不満がねえんだよ。不満なのはお前が出した条件のせいで略式で終わらせる予定だった婚姻の儀を本格的な形で執り行うという事だ。」
「何がいけませぬ?私は笹川の由緒ある姫、神路様は蘇の筆頭老中の嫡子。その婚姻が略式で終わらされる方が余程みっともない話になりますわ。」
「俺は黒崎の妻と名乗りたいならば、少しは節約を学べと言ったはずだよな?」
「婚姻は女子の一生の想いが秘めらたもの…、それすらケチな気持ちを持てというのが蘇の武士の誉れでありますか?」
「もう良い。お前とは話にならん。」
玄関に向かうまで、彩里と言い争ってはいたが、流石に黒崎の家臣達が並ぶ玄関口でまで言い争いを続けるなど恥にしかならぬと口を噤むしかない。
「私は…、神路様の妻として扱われたいだけなのに…。」
執拗い彩里はまだ口を閉じず愚痴を零す。
玄関先には新郎新婦の為の輿が二つ置かれている。
その正面に馬に乗る義父と義父に抱かれるようにして馬に乗る鈴の姿が見える。
これから婚姻の儀の最後の儀式へと向かう事になる。