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戦場に響く鈴の音
第22章 初夜
自室の前まで来れば、廊下で踞る多栄の姿に驚く事となる。
「多栄…。」
寒い廊下で今にも眠てしまいそうな表情をする多栄が歯をガタガタと震わせながら俺の方を見る。
「おか…え…──。」
慌てて俺が着ていた羽織りを多栄に着せてから
「鈴は?」
とだけ確認をする。
「鈴…さ…まなら…。」
部屋に居ると多栄の視線が知らせる。
「わかった…、多栄はもう部屋に行って寝ろ。明日からは少し多栄も休みを取らせてやるからな。」
鈴の気持ちがわからぬ訳ではないが、これでは多栄が可哀想だと拗ねたままの鈴に呆れてしまう。
「おやすみ…なさいまし…。」
鈴から、こんな仕打ちをされたというのに深々と俺に頭を下げる多栄が不憫だと思う。
「おいっ!鈴っ!」
躾が必要な仔猫を叱るつもりで部屋へと踏み込んだ。
襖戸を開けて、言葉を失う。
真っ暗な部屋…。
暖炉には火すら点いておらず、廊下よりも冷えきった部屋の片隅では金色に光る瞳が僅かに俺を見る。
俺が居ないというだけで、俺の仔猫は薄い襦袢一枚だけの姿で部屋の隅に踞り、動かなくなってしまう。
多栄の為に叱るつもりだったが、言葉すら失わせてしまう鈴の前では俺は跪くしかなくなる。
「悪かったから…。」
謝ったところで鈴は微動だにせず、悲しげな視線を向けたままだ。
手を差し伸べて鈴に触れようとしても、拗ねた仔猫はビクリと身体を震わせて俺の手から逃げようとする。
「鈴…、もう俺と居るのは嫌か?」
義父が言う通り、俺は自分を傷付けて、鈴までをも傷付ける婚姻を選んだ。
そんな身勝手な漢の傍に無理をして居る必要はないとしか俺には言い様がない。
俺の質問には答えようとしない仔猫は、ただ悔しげに唇を噛み締めて身勝手な漢を睨み続けていた。