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戦場に響く鈴の音
第23章 笑顔
やっと暖炉に火が灯り、部屋の灯篭に灯りが点く。
雪南が居てくれて良かったとホッと安堵のため息を吐く。
俺と鈴の為に斎我に作らせた夜食を持って来た雪南は、真っ暗闇で睨み合っていた俺と鈴に呆れてる。
「鈴…、主の為に部屋を暖めておくのは小姓の務めだと、随分と前に教えたはずだ。」
まだ部屋の片隅で拗ねたままの仔猫に向かって雪南が躾の言葉を投げかける。
「わかってる。だが…、今夜は初夜だ…、神路はここに戻らぬと思っただけだ。」
鈴の雪南に対する言い訳が棘のように俺の心に突き刺さる。
「帰らぬとしても、常に備えるのが小姓の仕事…、実際に黒崎様は帰って来て居られるではないか…。」
口煩い雪南は鈴の言い訳をそうは簡単に許しはしない。
「でも…。」
悔しみに歯を食い縛り、肌襦袢の袖を握り締める鈴の大きな瞳には涙が込み上げている。
「もう良い…、勝手に帰って来た俺が悪い。鈴…、辛いのならば義父の部屋で暮らすか?」
鈴を苦しめるくらいならば…。
そう思うて出た言葉はますます鈴を苦しめる。
「神路は…、もう…鈴が要らないと申すのかっ!」
大粒の涙を流す瞳が大きく見開き、小さく切ない叫びが屋敷中へと響き渡る。
「鈴、何時だと思っておる。声を荒らげるな。」
容赦のない雪南は更に鈴を叱り付ける。
これでは鈴が可哀想だと俺は鈴に手を差し伸べる。
「鈴、おいで…。」
いつものように広げてやる手に鈴が迷いを見せる。
「俺は鈴を手放す気はないよ。だが鈴が俺を待つのが辛いと言うならば鈴は義父の傍に居るべきだ。」
「鈴は辛くなどないっ!」
強情な鈴は自分が傷付いた事実を認めずに、軽やかに俺の腕の中へと飛び込んで来る。