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戦場に響く鈴の音
第23章 笑顔

完全に冷えきった身体…。
満足に食事もせず、帰らぬ主を待ち続けた小姓は感極まったのだろうか俺が抱き上げるなり一気に声を出して泣き喚く。
「うわぁーん…。」
激しい感情をいきなりぶちまける鈴の姿に雪南がポカンと口を開き、驚きの表情を晒したまま鈴を見る。
「おい…、鈴…。」
小姓としては間違いなく、はしたないとは思うが、これ以上の雪南の説教は鈴の耳に入らないだろうと片手で軽く雪南を制してから鈴の背中を叩いて宥めてやる。
「そうやって黒崎様が鈴を甘やかすから…。」
俺に制されてしまった雪南がブツブツと文句を垂れ流したまま机の上へ夜食の用意をする。
今日一日で鈴が彩里から受けた惨い屈辱を考えれば、少しくらいの我儘は傷付いた鈴に許されても良いだろうと俺は気が済むまで鈴を泣かせてやる。
「鈴は…、まだ子供だからな。」
俺がそう言えば
「鈴はもう子供じゃないっ!うわぁー…。」
と叫んで更に泣く。
鼻かみ用の紙を持つ雪南が俺が膝に抱く鈴の顔に紙を押し付けて叱り飛ばす。
「ほら、鼻をチンするのだ。大人の女だと言うのならば、そのみっともない鼻水を主の着物に付けたりするな。」
「鈴は…鼻水など…ヒック…出して…ヒック…。」
最後は雪南の鼻チンで鈴の涙が収拾する。
寒い深夜に、いい歳をした漢が二人がかりで小さな少女に振り回されている姿に笑ってしまう。
「ほら、斎我がわざわざ作ってくれた食事だぞ。鈴は食わぬのか?」
斎我が用意をしたのは、天音名物となる塩漬けの鮭を米に乗せて出汁を掛けて食う茶漬けだ。
木の匙でひと掬いして鈴の口元まで運んでやれば、小さな口を開いた鈴が大人しく食事をする。

