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戦場に響く鈴の音
第23章 笑顔



この天然母に捕まったら、柑の滞在中は寺嶋の屋敷から出られなくなる気がする。


「寺嶋の事なら心配は要らぬ。我らは行くところがあるので…。」

「やだわぁ…、ご領主様にお茶すら出さずに帰したと主人が知れば…。」

「大丈夫、要らぬ心配だ。」

「ほら、多栄…、貴女はご領主様の護衛について行きなさい。」

「いや、多栄は休暇中なので…。」


よくわからん押し問答の末、寺嶋の屋敷の前から鈴を連れて逃げ出す事となる。

茂吉の抱える兵達も俺が逃げ出した事で、訳がわからぬと勝手に解散する流れとなる。

とりあえず、寺嶋の屋敷から離れる為にと柑の街の中心部へと馬を向けて歩き出す。


「多栄のおっ母は相変わらずの天然だな。」


俺が操る馬の前に乗る鈴が偉そうにため息を吐く。


お前がそれを言うか?


それを言えば間違いなく鈴が拗ねてしまうと思うから、思わず言葉を呑み込めば


「何か言いたそうだな?神路…。」


と鈴が疑うように俺の方へと振り返る。


そんな時だけ聡いのか?


いや、これも呑み込むべきだと判断する。


「神路っ!」

「なんだ?」

「言いたい事があるなら…。」

「何にもありません。」

「鈴は嘘は嫌いだ。」


鈴の小さな手が俺の頬を抓る。

言っても言わなくても俺は鈴に怒られる存在らしい。


「俺は何にも言ってねえだろ?」

「如何にも、何か言いたそうな顔をしてる。」

「…んな顔はしてない。」

「してるっ!」


馬の上でじゃれ合う俺と鈴を、横に馬を並べる茂吉が呆れた表情で眺めている。

その後ろを徒歩でついて来るのは、どこぞの村の兄弟だ。


「神路ってば…。」

「はいはい、姫様が行きたいところへ連れて行きますから…。」


柑に居る間は俺は領主でなく、ただの鈴の男で居たいと思う。

そんな俺の気持ちを理解してる鈴は口を尖らせながらも瞳だけは笑いながら俺の方を見続けていた。


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