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戦場に響く鈴の音
第23章 笑顔
ゴロツキに近い兵達に囲まれた寺嶋の屋敷からは、白い割烹着を付けた中年の女が何事かと飛び出して来る。
「母様…、大丈夫よ。黒崎様の護衛兵の方々だから…。」
茂吉が乗る馬から降りる多栄が中年女性に説明する。
「あらあら、黒崎様の…、これはこれは…、うちの主人と娘が大変お世話になっております。」
多栄の母親が茂吉に向かって深々と頭を下げる。
「違っ!母様…、黒崎様はこっち…。」
慌てる多栄が馬から降りる俺と鈴の方を指差せば
「まあ、鈴ちゃん…、久しぶりね。また多栄とお団子でも食べに行くの?」
と多栄の母親が呑気に笑う。
「母様っ!鈴様は黒崎の姫君だから馴れ馴れしくしてはならぬ!それに先ずは黒崎様にちゃんとご挨拶をしてよっ!」
鈴以上に天然を発揮する母親に多栄が発狂する。
「あー…、多栄…、とにかく折角のご実家に帰ったのだから、ゆっくりと休め。明後日にはまた迎えに来るからな。」
多栄を帰して、早々にこの場から逃げたい俺に
「やだわ。黒崎様…、何のおもてなしも出来ませぬが、せめてお茶だけでも上がって飲んで行かれては?」
と多栄の母親がソワソワとし始める。
俺が茶など飲んでる間中、茂吉の部下が寺嶋の屋敷を取り巻き続けたりすれば、街中の噂になりかねない。
「お気持ちだけで充分だ。本来なら、こちらの屋敷主である寺嶋も帰す予定だったが、今は天音の屋敷では寺嶋は必要な存在故に何かとすまない事をしてると思う。」
寺嶋の主君として、頭を下げれば
「あらあら、ご領主様ともあろうお方が…、あの人の事はお気になさらず。ああいう堅物ですので娘までもが堅物に育ってしまい、寧ろ、ご領主様にご迷惑を掛けてはいないかと心配ですわ。」
と多栄の母親が豪快に笑う。