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戦場に響く鈴の音
第24章 演奏
「褒めてはいない。ただ…もう一度、聴きたいと思わせる音だったと言ってるのだ。」
慰めなど言ったところで鈴は受け入れたりはしない。
俺が感じた事実だけを言ってやる。
そうすれば鈴は素直に受け入れる。
「もっと練習する。神路が聴きたい時にいつでも弾けるように練習をするよ。」
頭でっかちで真面目な鈴なら、直ぐにでも人様の前で演奏が出来るくらいに上手くなるだろう。
「雪南に怒られない程度にしておけよ。」
屋敷内で派手に音を立てれば雪南が良い顔はしない。
「雪南にも聴きたいと言わせるほど上手くなれば良いだけだ。」
強気の鈴がニンマリと笑う。
その笑顔は誰もが笑顔になるほど自信に溢れた清々しい笑顔だ。
「旦那、芸妓達に、もう少し演奏をして貰ってよろしいか?琴の音など俺達には縁がないもの故…。」
茂吉や兵士達までもが、まだ琴を聴きたいと強請り出す。
「何曲か出来るのか?」
演奏者の女に聞けば女が小さく頷く。
再び、広間には琴の音が響き渡る。
女子達が弾く琴の音は、やはり洗練されていて素晴らしい音楽だと思わせる演奏になっている。
鈴はその音を真剣な表情で聴き、一音一音の出し方を覚えようと目を凝らしてまで演奏者を見詰めている。
花街では軽んじられる芸妓が、今宵は花魁達よりも誇らしげな表情で琴を掻き鳴らす。
広間の空気までもを震えさせる音…。
誰もが、自分の中に思い起こすものを瞼の向こうに描き、琴の音に包まれる。
そんな宴が静かになる頃には、柑の夜空に雪が降る。
「神路…、雪だ。」
窓の外を覗く鈴がそう言う。
「朝には止む。だが、止まぬようになるのは時間の問題だ。」
日に日に雪が増えるだろう。
そして俺と鈴は天音の屋敷に閉じ込められる。
自由を無くした鳥が再び飛べる日が来るまで、静かに待つだけの冬がやって来た。