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戦場に響く鈴の音
第24章 演奏
先程の芸妓が聴かせた完成された音じゃない。
未熟で所々がボヤけた音なのに…。
茂吉が口を開けたまま鈴を凝視する。
完璧な演奏を行ったはずの芸妓達までもが鈴が奏でる拙い音に耳を澄ます。
それは純粋な音だった。
何かを思い起こす演奏でなく、何処かで聴いた事がある不思議な音が一音一音と続く演奏に変わってく。
これが鈴の音だと感じる。
何処か激しくもあり、寂しくもあり哀しみを含む音…。
切なく響き渡る雨垂れの音の中では誰もが口を閉ざし、鈴が険しい表情で奏でる音を聴き続ける。
そして最後の一音を鈴が弾き終える。
「やはり、難しいものだな。」
眉をへの字にして困った顔をする鈴に茂吉や兵士達が割れんばかりに拍手を送る。
「嬢ちゃん…、そんな曲を何処で習ったんだい?」
茂吉の質問に鈴が悩む。
「わからぬ。きっと村に居た頃、おっ母と聴いたのだと思う。」
演奏をした鈴すら驚いた表情をしている。
「初めてとは思えない演奏でありましたよ。」
芸妓が鈴を褒め称える。
皆が惜しみない賛辞を送るというのに、うちの仔猫は照れ臭いのか跳ねるようにして俺の傍まで帰って来る。
「下手だったろ?」
俺の背中にしがみつく鈴が情けない表情で聞く。
嘘が嫌いな子だから…。
「ああ、まだまだ未熟だったな。」
とだけ答えてやる。
「恥ずかしい…。」
未熟な演奏を人に聴かせてしまった後悔を鈴が口にする。
「未熟だったが…、俺は好きだと思った。」
「下手だと言ったではないか。」
「雨垂れを思わせる音…、素直な鈴の音だった。」
「褒めてるようには聞こえぬぞ。」
拗ねた鈴が口を尖らせる。