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戦場に響く鈴の音
第25章 家族
「おかえりなさいませ…。」
湖の桟橋で恭しく俺を出迎えるのは雪南だ。
「留守中は?」
「離宮以外は何事も無く…。」
「離宮は何だ?」
「黒崎様がいつ戻るのかと騒がれた程度ですよ。」
涼しい顔で雪南が笑顔を作る。
予定よりも長く柑に居た。
流石に雪が限界だと判断してから鈴と多栄を連れて天音へ戻る。
雪が続けば湖が凍る。
そうなれば柑から出る連絡船が停まる。
その最終の船で帰って来た。
「随分と荷物が多いようで…。」
柑から戻る船には茂吉と部下の兵士が10人ほど乗って来た。
「鈴が義父や雪南に土産をたくさん買ったからな。」
茂吉の方を見ながら、話を誤魔化す。
「鈴が…ですか?」
「お前が買えなかった本を買って来たぞ。」
「あれは買えなかった訳ではありませぬ。無駄な出費だと判断したから買わなかっただけです。」
「諦めるまで、随分と悩んでいたと鈴は言っていた。」
「全く、自分の物は買わないくせに…。」
照れ臭いのか、雪南が顔を背ける。
すっかり慣れたゴロツキ兵士達に囲まれた鈴が茂吉に抱っこされて船から降りて来る。
「鈴、多栄を連れて直ぐに屋敷に戻り、黒崎様の荷物を片付けて部屋を整えて来なさい。」
茂吉達が鈴を甘やかす事を認めない雪南が鈴にそう申し付ける。
「わかった。だが、おっ父に挨拶をして構わぬか?10日も屋敷を離れていた。おっ父にお土産を差し上げたい。」
鈴が口を開けば
「御館様も鈴の心配をしておられた。顔を出すくらいなら問題はない。早く行きなさい。」
と結局は雪南も鈴を甘やかす。
「お前、鈴には甘いね。」
「黒崎様が甘やかしてる以上、厳しくしても無駄ですからね。」
俺と鈴が居ぬ間に、茂吉が注文した鈴の琴が先に屋敷へ届いたと雪南が言う。