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戦場に響く鈴の音
第25章 家族

柊から来るには、もう2、3日はかかるだろうと思っていたが、俺の予想を上回り、雪で閉ざされぬうちにと早馬が西元領内を駆け抜けたらしい。
「琴には、おまけまで付いて来ております。」
「おまけ?」
雪南の言葉の意味がわからずに屋敷へと戻れば
「お久しゅうございます。主様…。」
と女が俺に頭を垂れる。
「絖花か…?」
花魁姿でない女だが、間違いなく柊の花魁だった絖花だ。
「足を洗ったのか?」
「いいえ、水野様が頑張ってはくれてるけど…、主様のように簡単には行きませぬ。」
「花魁は…。」
「まだ続けてはいますよ。堕ちるのは時間の問題ですけど…。」
遊郭の花形である花魁…。
ただし、歳を重ねれば遊女へ堕ち、芸妓へと更に堕ちる。
「後、どのくらい必要なのだ?」
「そんな野暮な話は止めましょう。冬は柊でも稼ぎが減るからと水野様が下さった貴重な仕事ですもの…。」
どうやら、絖花の今の旦那は茂吉らしい。
茂吉が必死に手柄を上げたがる理由は絖花の為…。
「お前、琴が?」
「胡蝶姐さんとは違って、私じゃ長く花魁が出来るとは思ってなかったから…。」
「腕前は?」
「柊には良い先生が居るの。その人に付いて、もう10年になりますわ。」
「あの夜、弾いてくれれば良かったものを…。」
「主様の心に伝わる音など出せはしませぬ。」
ふふふと大人びた笑いを見せる絖花が随分と変わった気がする。
あの頃は若さだけで勝ち気だった絖花だが、若さだけでは生きる事が難しい花街での暮らしが絖花に変化を齎している。
「変わったな。」
俺がそう言えば
「主様こそ…、そんな穏やかな表情など見せては下さりませぬでしたよ。」
と絖花が笑う。

