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戦場に響く鈴の音
第25章 家族
悪いが夕べの記憶が全く無い。
「だから、飲み過ぎだと言ったのに…。」
鈴が俺の頬を小さな手で撫でて来る。
「すまん…。」
てっきり鈴が怒ってると思っていた。
だが、予想とは違い鈴はふふふと笑う。
「鈴?」
「わかってた。屋敷に戻ってから…、ずっと神路がイライラしている事を…、原因もわかってる。」
「鈴のせいでは…。」
「うん…、それでも神路は優しいから…、鈴が責めれば神路が傷付いてしまう。」
「そんな事は無い…。」
俺が未熟なだけだ。
傷付く鈴を受け止めてやるだけの力が俺に無いのが原因だ。
「朝ご飯…、貰って来る。食べたら神路は仕事でしょ?」
離宮へ行けとは言わないが、それが黒崎の嫡子としての務めだと鈴が遠回しに言う。
乱れた着物を直し、大人びた笑顔を見せてから部屋を出て行く鈴が頼もしくもあり、寂しくもある。
「もう少し…、ガキのままで居ても良かったのに…。」
本音を独りで呟く。
誰もが鈴を姫として扱い、鈴が少しつづ変わってく。
うかうかしてられないと俺も気持ちを切り替える。
顔を洗い、朝食を済ませた俺の着替えを鈴が整える。
「いってらっしゃい。」
笑顔で俺を送り出す鈴の頬に口付けをして部屋を出れば、雪南が廊下で跪く。
「参りますか?」
義父に怒られた雪南はそうやって俺に主としての自覚を持たせると決めたらしい。
部屋の方へ振り返れば、鈴が奏でる琴の音が聴こえて来る。
「行くぞ…。」
俺は俺がすべき事をせねばならぬ。
鈴が奏でる音色が俺の背中を後押しする。
雪南が立ち上がり、俺の前を歩き出す。
この屋敷の者達を守る為に、主として進むべき路をやっと歩き出したような気がした。