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戦場に響く鈴の音
第28章 説教
本当に理解が出来たのかと与一の表情を見れば
「よし、わかった。俺が兄ちゃん達に協力してやる。俺なら朧までの村の位置も村長とか皆わかってる。俺も兄ちゃん達と一緒に戦ってやるよ。」
と的外れな事を言い始める。
「駄目だ。子供は戦には連れて行けぬ。」
「鈴だって子供じゃないか?しかも女じゃん。それに鈴に付いてる多栄って奴も女だろ。兄ちゃんは女しか雇わないつもりか?」
「鈴は一応、訓練を受けた身だ。多栄は女侍でかなりの使い手…、刀すら握った事の無い与一とは違う。」
「確かに刀は持った事は無いよ。けど俺だっておっ父に槍の使い方や戦い方は教わった。俺も戦いたいんだ。だって俺の村を守る為の戦なんだろ?なのに見てるだけなんか出来る訳ないじゃん。」
与一の必死な表情が鈴と重なって見える。
鈴は俺がどうするつもりかと黙ったまま状況を見ている。
「雪南…。」
「決定権は黒崎様にあります。」
決めるのは俺だと雪南が言う。
多分、置いて行ったとしても与一は勝手について来る。
「明日から多栄の馬に乗れ。必ず俺の命令は聞く事…。時間があれば多栄に刀の使い方を教われ…。」
ニンマリと鈴が笑いやがる。
「鈴、暇なら兵達の為に何か弾いてやれ。」
兵の大半が庶民だ。
鈴の琴の音の噂は兵達の間でかなりの評判になっている。
戦場で生き残る為に神経を尖らせる兵の気が休まる時間くらい与えてやりたいと思う。
俺がただの鬼かどうかを与一に見せてやれば良いと鈴が望んだ事だから…。
鈴が天幕の外へ出て琴を奏で始める。
「与一を連れて行くのは鈴の為ですか?」
雪南が俺に確認する。
「ああ…。」
それだけを答えれば雪南は納得する。
兵達が鈴の音を聴く為だけで俺の天幕の周りへ集まり出す。
誰もが懐かしい響きに穏やかな笑顔をする。
戦場での鈴の音は俺の為に戦う人々に安らぎだけを与え続けていた。