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戦場に響く鈴の音
第29章 使者
陽へ入った。
街は家の扉を閉ざし、人が住んでるとは思えないほど静まり返えり道を抜ける兵達がますます警戒心を高める。
蘇の大軍が来たというだけで由の笹川の民はいち早く逃げる姿勢で身構える。
軍のほとんどは陽の街を取り囲むようにして配置した。
後は孩里が愚かな行動を起こさない事を祈るだけだ。
「義兄上様っ!」
暁の城門に到達した俺を出迎える小さな殿が笑顔を見せる。
これが万里の息子の孩里かと疑いたくなる。
骨太だった万里や彩里に比べ、かなり華奢で少女のように無邪気な笑顔を見せる孩里は金色の小袖に金色の袴を履き、派手好きな笹川の象徴だけしか感じさせぬ。
「お前が孩里か?」
「はい、義兄上様…、ほら、角…、義兄上様は僕を助ける為に来たのだ。これで笹川は安泰だ。心配など無用なのだ。」
昨日の角という男を連れた孩里は俺が来た事でご満悦の様子だ。
「ですが孩里様…。」
角だけが警戒心を怠らない。
「義兄上様からも言ってやって下さい。義兄上様は僕の為に陽へ駆け付けたのだと…。」
孩里のご希望通りに答えてやる。
「ああ…、その通り、だから孩里は荷物を纏めて直ぐに暁を出ろ。暁は俺が貰い受ける。」
俺の放つ宣戦布告に孩里や角などの由の兵達が凍りつく。
「今、何と!?」
「暁は俺が貰う。孩里には笹川当主として朧へ入って貰う。その条件を飲むならば伯里と透里を蹴散らしてやるよ。」
「貴様っ!」
角が吠える。
次の瞬間には俺が抜いた刃が孩里の喉元に突き付けられる。
「ここで孩里を消せば、暁は彩里の夫である俺の物となる。どちらにせよ俺が伯里と透里を討ち、笹川の当主に成り上がる。孩里を当主としたいと望むならば俺の命令に従え…。」
お坊っちゃんの孩里とは違うと俺の存在を見せ付けるだけで孩里の家臣達はお互いの顔を見合わせて保身の計算を始める。