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戦場に響く鈴の音
第29章 使者
「しかし…、孩里様は戦の経験など…。」
角が御託を並べる。
「経験など要らぬ。元服はしたのだろ?ならば、これが初陣だ。喜べ…、負け知らずの初陣を経験させてやる。」
「ですが…、義兄上様。それは叔父上達を討つという意味で…。」
「討たねばお前が討たれるだけだ。俺はそれでも構わない。お前が討たれた後に帝と彩里の名の元でお前の敵を討つだけの事…。」
どんな筋書きだろうと俺が暁を手に入れる事は変わらないと言えば、流石の孩里が足を震わせて青ざめる。
「義兄…上…。」
「さっさと決めろ。俺と一緒に来て朧を落とすか、ここで俺に切られるか…。」
「閣議を…。」
「そんな暇は無い。伯里も透里も戦の準備は終わってる。後はタイミングを見て孩里を討ちに来るつもりだ。」
春には動くつもりだったはずだ。
だが、いち早く俺が由へ遠征した事で伯里達は迷いを感じて様子を見てる段階に過ぎない。
俺が孩里を討てば、当主の敵として真っ先に俺を討ちに来る。
逆に俺が孩里を援護するならば、待ち構えての戦となる。
伯里や透里も自分に有利な戦略を選ぶに決まってる。
それを愚かな孩里にわからせてやる。
「では、暁は…。」
孩里が半泣きの顔で聞いて来る。
「うちの羽多野が城主となる。10万の兵を置いて行く。羽多野は防衛で負け知らずの男だからな。」
その為に羽多野を連れて来た。
羽多野ならば由の大城主が攻めて来ても陽の街を守れる。
西元では不意打ちの火攻めで負けはしたが、西元自体は万里に取られてはいない。
焼かれた城を捨てて、直ぐに防衛の陣を引き、俺の到着を待つ判断を下した羽多野こそ暁の城主に相応しい。