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戦場に響く鈴の音
第4章 出陣
ふと目が覚める。
人の気配を感じる。
今は何時(なんどき)だ?
枕元にある刀に手を掛けて考える。
俺が床について四刻ほどか?
まだ外は暗い。
障子の隙間の向こうに丑三つ時の闇が見える。
「誰だ?」
暗闇が制する部屋の片隅に人の気配がする。
その人がゆっくりと顔を擡(もた)げれば、二つの鋭い光が俺を睨む。
「鈴か?」
そう聞けば鈴の瞳が放つ光が消える。
鈴が更に身体を小さくして俺の部屋の片隅で踞ったのだと理解する。
「鈴、ここに来い。」
刀から手を外し鈴を呼ぶ。
鈴は警戒するようにゆっくりと用心深く物音をさせず俺の足元まで寄って来る。
「何故、ここに居る?」
「鈴が起きたら神路が居なかった。」
「そりゃ、向こうが鈴の寝床だからな。」
「鈴は神路の小姓だ。」
鈴の声が震えてる。
目が覚めて俺が居ない事に驚いたらしい。
この、ひと月、鈴は俺の床で寝ていた。
屋敷に帰って来ても俺の床に入るものだと鈴は思ってた。
まだ親が恋しい子供だ。
保護者がいきなり消えれば怯えて当然だと言える。
「一緒に寝るか?」
鈴にそう聞けば鈴は物怖じする事なく俺の足元から布団の上へとよじ登って来る。
「鈴は神路の小姓だ。」
拗ねた声がする。
寂しかったと素直に言えない可愛さがいと愛おしいと思う。
御館様も義父も俺にそう感じた時があったのだろう。
鈴を通して御館様達の気持ちが理解出来る。
これが御館様の言う愛かはわからん。
ただ鈴を抱えて眠れば俺の心も落ち着く。
鈴が小さな手を伸ばし俺の首に手を当てる。
「痛いか?」
鈴が聞いて来る。
鈴に引っ掻かれた傷の事だろう。