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戦場に響く鈴の音
第31章 天使
「田井…、街を見ろ。誰も俺達を見ていない。」
俺の説明に田井の弟が辺りを見渡す。
いつの間にか街中の女子が遠巻きに集まり、雪南と京八に熱い視線を投げ掛け、僅かでも目が合えば華奢な手までも振りながら雪南達の気を引こうとしている。
俺が暁の城下街である陽へ入った時は、西元の鬼が来たと無人になる街から怯える視線を感じるだけだったのに、この差は何だと言いたくなる。
「おかしいでしょっ!?男は顔じゃないっ!」
認めたくない兄弟が騒ぐ。
「ほらほら、いつまでも馬鹿な話をせずに宿で田井達は風呂を使いなさい。黒崎様にまで匂いが移る。」
騒ぐ兄弟を雪南が叱る。
そうやって呑気に騒ぐ俺を晋が不思議そうに見る。
「どうした?」
晋に聞いてやる。
「いえ…。」
晋は俯き、言葉を濁す。
「言いたい事があるなら言え…。」
そう詰めると
「皆様、黒崎家の家臣…となる方々なのでありますよね?」
と納得がいかない表情を見せる。
「ああ、家臣だな。だが友であり、師でもある。」
「師でも?」
「俺とて完璧ではない。ましてや拾われっ子…、生まれも悪く育ちも悪い。間違いを犯せば雪南や田井達が俺を止める。家臣であっても同じ民で同じ人間だからな。」
晋が信じられないものを見たように目を見開く。
「同じ人間…。」
「そうだ。俺にそう教えたのが蘇の大城主、大河様だ。蘇はそういう国を目指している。由の大城主はそれを博愛主義と笑うが俺は蘇という国が好きだ。」
「蘇の大城主は、それで民が守れるのか?」
「話が逆だ。そういう大城主だからこそ、民が国を守る為に大城主を守ろうと力を貸すのだ。」
だから御館様は俺に忠義を覚えさせて育てた。
忠義が無ければ、俺は私利私欲だけで由に寝返っていてもおかしくはない。
御館様の教えをようやく理解し、尚且つ、この世の中は顔で決まるという理不尽も学んだ俺は真面目に悩む晋をドヤ顔で見詰めていた。