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戦場に響く鈴の音
第32章 閣議
由の兵が居るというだけで朧への帰路は順調だ。
行きは村や街を避けて迂回を余儀なくされたが、由の兵士が居れば普通に村や街へ入れる。
但し、宿などは足元を見た金子を要求される為、下手に酒など注文も出来ない。
「酒は無し…。」
食事中に田井兄弟がポツリと呟く。
「持って来た酒は黒崎様が一人でお飲みになったからな。」
酒が無いのは俺のせいだと言う雪南はしれっと飯を食う。
「仕方が無いだろ?磐の宿代だけでも蘇の5倍だぞ。人数が増えた分、支払いが大変なんだよ。屋根があって風呂に入れるだけでも有難いと思え。」
真っ直ぐに進める有難さはあるが由の兵の分まで支払いをさせられるとは思ってもみなかった。
「由の大城主…、驚くほどせこい…。」
京八が晋を見ながらボヤく。
晋達、由の兵は肩身が狭いと顔を伏せる。
「まあ、兵に経費を出す大城主なんか四国の中では蘇だけだからな。」
晋達が悪い訳じゃないと一応はフォローする。
「んじゃ、今回の由遠征の経費は大城主様からですか?」
京八と田井兄弟が興味津々に聞いて来る。
「いや、今回の経費を出したのは神国、つまり全て帝が支払いをしてる。」
「帝が?じゃあ、俺達、帝の金で酒を飲んだりしてるって事ですか…。そりゃすげーや。」
「酒代までの経費は出ねえよ。酒代は俺の金…。」
「なんだ。若殿様の奢りか…。」
俺の金で酒を飲むのは当たり前のように言いやがる。
「お前らは帰って茂吉に奢って貰えっ!」
「嫌ですよ。水野さんの酒は安物ばかりなんすから…。」
「贅沢を言うな。お前らは水野の特別遊軍の兵なのだから…。」
「確かに、早く朧に帰って水野さんに酒を奢って貰おう。そんで姫様に琴を弾いて貰うんだ。」
無邪気な田井兄弟が鈴の琴が聴きたいと強請る。