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戦場に響く鈴の音
第32章 閣議



鈴の音…。

忘れてしまいそうだとため息が出る。

鈴と離れて、ひと月…。

本当に燕へ帰ってたら洒落にならないとか考える。


「先に寝る…。」


皆を残して席を立つ。

床に入ったところで眠れやしない。

明日には朧へ着くというのに、この俺が怯えてる。

いや、どんな顔で鈴に会えば良いのかと迷ってる。

謝って済むのか?

思い出せるのは鈴の泣き顔ばかり…。

頼むから朧に居てくれと何度も願うしかなかった。

翌日、朧へ着いたのは夕刻前だった。

晋達、護衛で来た由の兵士達は朧の城門前で俺達に頭を下げると磐へと引き返す。

今はまだ、由の兵が朧に入っても、居た堪れない気持ちになるだけだと晋が言っていた。

晋とは違う意味で居た堪れない気持ちを抱える俺が朧の城門を潜ることとなる。


「姫様の琴の音だ。」


城の入り口で田井兄弟が瞳を輝かす。


「おかえりなさいませ。」


入り口に入れば、与一を連れた多栄が俺に頭を下げる。

不貞腐れる与一が小姓の仕事だからと水に濡らした手拭いで俺の足を拭く。


「どうした?与一…、元気が無いな。鈴はどうした?」


出来るだけ冷静を装い、鈴の事を与一に尋ねる。

鈴の琴の音はまだ城内に響いてる。

燕に帰ってないとわかっただけで変に安堵する俺を睨む与一が


「鈴なら佐京様の寝所に居る。」


と不機嫌な声で言う。


「与一っ!余計な事を言って黒崎様の気分を害してはならぬ。」


慌てる多栄が与一を叱る。


「鈴が…、佐京の寝所に居るというのは事実か?」


怒りだけが俺を襲う。


「毎日、佐京様の為に琴を弾いてる。佐京様は鈴の琴を聴いて酒浸りだからな。」


そう吐き捨てるように言うと与一が背を向けて立ち去る。


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