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戦場に響く鈴の音
第33章 悪夢
怪しい団体客はお断りの庄条…。
そこで、まさかの足止めに鈴は苛立ちを隠しはしない。
待たされているとはいえ、俺が黒崎の嫡男だと伝えた段階で一般の商人達とは別待遇であり、門の内側にある待合用の小屋でお茶と菓子付きで待たされているという程度だ。
待たされてる理由の見当は付いている。
「そんなにお待たせを致しましたか?」
この街の領主だというのに偉ぶった態度はせず、穏やかで優しげな声で挨拶をする汐元が俺の前に進み出て頭を垂れる。
白髪頭で細い目を常に細めたまま笑顔を絶やさない生粋の商人という風貌は俺が初めて出会った頃から変わらないなと思う。
黒崎が庄条に現れたと連絡を受けた汐元は急いで街の門まで駆け付けたらしい。
「頭を上げて下さい。汐元様…。」
幾ら筆頭老中の息子とはいえ、黒炎じゃ四武家の一人である汐元よりも俺の方が身分は下になる。
なのに汐元は義父との付き合いや、この先の取り引き相手として値踏みをし、俺には臣下の礼を尽くす。
「ご無沙汰をしております。神路殿…、お父上はお元気で在らせますか?」
「しばらく義父には俺も会ってない。此度、神へ大河様より呼び出しを受けた。」
「左様でございましたか…。」
汐元の視線は慌てて俺の後ろへ隠れた鈴へと向く。
「鈴、こちらが汐元様だ。ご挨拶をするのではなかったか?」
人見知りのある鈴を汐元の前へ押し出せば、鈴は俯いたままぶっきらぼうに
「何かとお祝いを頂いた。ありがとうございます。」
とだけ呟く。
「申し訳ない。汐元様…、これはまだまだ行儀が悪い。」
「いえいえ、黒崎の姫様を初めて黒炎でお見かけした時は神路殿が大城主様に寺子屋へ通わせたいと願い出た時ですな。とても可憐で優秀な姫様にお育ち遊ばし、黒崎の大殿様もさぞお喜びでありましょう。」
汐元のお世辞に鈴が顔を赤らめる。
茂吉達が揃うまで、この庄条の街でしばらくは至れり尽くせりの汐元の接待を受ける事になると雪南は軽く肩を竦め、鈴は再び、俺の後ろへ隠れようと藻掻く姿を晒すだけだった。