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戦場に響く鈴の音
第34章 醜態
「由では随分と面白い戦をされましたな。」
汐元が細い目を更に細めて俺を見る。
口元は笑ってるが、見えない瞳は笑ってないのだろうと予想する。
やっと入った庄条だが、宿ではなく汐元の屋敷へ連れて来られる事となり、汐元が用意した宴の席では痛くもない腹を探られている。
「冬越えの由に戦らしい戦が出来なかったというだけです。」
汐元の腹は俺では計り兼ねる。
義父なら、上手くやれるのだろうが俺では役不足だと苦笑いを返すので精一杯の状況だ。
口を軽くする為に次々と差し出される酒を飲み、酔ったフリで話を調弄す。
鈴は酒に酔う俺の傍に居たくないという態度を取り、汐元のリクエストに応える形で琴を弾かされている。
汐元は元が商人の一族…。
鈴の演奏を下卑た音楽と野次るどころか新しい琴まで用意をして待っていた。
「あの由で負け無しの戦をされたとは頼もしい限りですな。黒崎の大殿様も嘸かし鼻が高いでしょう。」
「いやいや、まだまだ不甲斐ないと言われております故…。」
「冬に、そちらの水野殿から大量の注文を受けた時は、流石に驚きましたよ。普通の戦の3倍は注文を受けました。しかも、その支払いで面白い噂を聞きましたぞ。」
「ほお…、噂…。」
「ええ、支払いは神の帝からだと…。」
汐元の瞳が怪しく光る。
俺が行った戦で、この先も汐元は儲けが出せる立場を維持が出来るのかと計算している。
「ここだけの話にして下さい。今回の由の遠征…、黒崎としては将来に手に入れる笹川の領地の下見のつもりだったのです。なのに、偶然、神よりお使いを頼まれてしまいまして…。」
「ほほう…、神路殿が天使としてでありますか?」
「義父はもう老体…、役不足で構わないならと返事をしたところ、経費は全て神が持つと…。」
あながち嘘では無いが嘘で誤魔化しながら話をする。