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戦場に響く鈴の音
第34章 醜態
鈴が冷たい視線を俺に向ける。
「そうだったな…、花街から帰って来ない神路を毎回、雪南が迎えに行っていたな。」
思い出に怒りのオーラを漂わせる鈴を怖いとか思う。
「まあ、同じ殿方でも蒲江様だけは格が違いますからね。」
多江も雪南だけは別格だと俺だけを批難する。
「鈴…、鈴さん…。そもそも庄条には花街が無いし…、俺はそんな場へは行ってないぞ。」
「あれば…、行くのか?」
「行かねえよっ!」
てか、雪南が花街に興味を持たぬのが不思議だと思う。
多江と二人で庄条の街を歩き出した鈴を眺めながら雪南に問う。
「お前…、花街に興味とかねえの?」
俺の問いに雪南は鼻に皺を寄せる。
「何故、私が花街なんかに…。」
「女が欲しいとか考えた事は?」
「別に…。不自由はした事がありませぬので…。」
色男故の言葉にムカつくとか思う。
「ああね…、雪南は不自由なんかしねえよな。」
「最近は些か不自由をしておりますが…。」
「最近?」
「まあ、女子が離れた場所で暮らしております故…。」
「誰だよ?」
「個人的な事を言うつもりはありません。」
ふふと雪南が笑う。
それは、何処か懐かしげな笑い方だ。
「恋人くらい紹介しろよ。」
「恋人では無いので…。」
「けど…。」
「今は、蘇と黒崎様の事を考えるだけで精一杯なのです。」
鈴と多江が不機嫌な表情で俺を見てるというのに、雪南だけがご機嫌な笑みを浮かべて俺を見る。
「おい…、雪南…。」
そう声を掛けても雪南は涼しい顔で俺を無視する。
「庄条には珍しい甘味処があるらしいですよ。鈴も多江も茂吉達の事は忘れてお楽しみなさい。」
鈴と多江の機嫌を雪南が取る。
不思議な宮司よりも更に摩訶不思議な男とは、常に俺の傍に居る雪南なのかもしれないと鳥肌が立つ思いをする庄条での一日だった。