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戦場に響く鈴の音
第34章 醜態
「何かご不便な事でもございましたかな?」
雪南に群がる女中達の向こう側から汐元の声がする。
「あー…、多江の支度までして頂けたようで…、汐元様には感謝しております。では、早速、鈴と多江を連れて庄条見物を…。」
逃げるように鈴を抱えて汐元の前をすり抜ける。
「ほお、庄条見物ですか?ならば商人達には黒崎様を充分に饗すようにと伝えておきましょう。」
「いやいや、お気持ちだけで結構ですっ!」
これ以上の騒ぎはごめんだと汐元の屋敷を飛び出せば雪南と多江も追って来る。
「神路…、降ろせ…。」
俺に荷物扱いで抱えられた鈴が文句を垂れる。
「申し訳ごさいません。」
やっと冷静になった多江が何度も俺に頭を下げ
「ああいう事は二度とやりませんから…。」
と多江を慰めた雪南が口を尖らせる。
どうにも汐元の屋敷では俺のペースを保つ事は至難の業だとか考えてしまう。
「多江っ!茂吉と与一は一緒ではなかったのかっ!?」
予定では三人が纏めて来るはずだった。
「水野様なら…、与一と柊の花街から出て来ませぬので多江だけが先に参上致しました。」
フンと鼻を鳴らした多江が俺も茂吉達と同じ生き物だと言わんばかりにそっぽを向く。
「ほー…、柊の花街に…。」
鈴までもが俺を睨み、嫌そうな顔をする。
「柊の花街には絖花が居る。茂吉は絖花の為に行ったのだろう。」
「茂吉はな。だが与一は違うよね?」
何故か茂吉達の代わりに俺が鈴に詰められる。
「おい…、雪南…。」
同じ男である雪南に助けを求めても
「花街へは黒崎様を迎えにしか行った事がありませんから…。茂吉と与一の気持ちは理解が出来ませぬ。」
と涼しい顔で言いやがる。