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戦場に響く鈴の音
第35章 思惑
泡のようにフワフワとした白い山に散りばめられた宝石のような果物が乗るパンケーキ…。
何が嬉しいのか、俺にはさっぱりわからんが、鈴と多江が瞳を輝かせるほど女子には、このパンケーキを食すという行為が、さも重要な事なのだろうとは感じる。
「んー…、幸せ…。」
あれだけ女子の姿になるのは嫌だと泣き喚いた多江ですら口いっぱいにパンケーキを頬張ると歓喜の声を上げる。
「やはり多江も女子なのだな…。」
鈴と同じように紅を引きパンケーキに頬を赤らめる多江が今日は普通の女子に見える。
「あら、黒崎様…、それは偏見であります。甘い物が好きならば女子というならば蒲江様だって…。」
とパンケーキを口にする雪南を多江がチラ見する。
「ああ…、雪南も甘党だったな。」
「別に甘党ではありませんよ。黒崎様の代わりに頭を使う為、甘い物が欲しくなるだけです。」
「斉我も甘党だっけ?」
「兄は甘党ではなく学びの為に食すのです。神で本格的なケーキ作りを学びたいと常々から言っておりますし…。」
斉我は神へは行けない。
蒲江の跡継ぎを退いた斉我は蘇から出る権利を失った。
その蒲江の決定は義父ですら覆す事が不可能である。
もし、斉我が神で学ぶチャンスを得るならば、大城主である大河様の命令で神へ赴くしか方法がない。
故に斉我は庖丁人としての腕を磨き続ける。
己が腕を認めて貰えれば、外で学ぶ機会が必ず来ると信じてる。
俺は庖丁人にまでは気が回らない。
自分の事だけで精一杯だと思うとため息が出る。
ふと、俺の袖を鈴が引く。
鈴の方へ視線を向ければ
「アーン…。」
と木匙で掬った泡を俺の口元に押し付けて来る。
「いや…、俺は要らぬ。」
甘い物は嫌いでは無いが、食べたいとは思わない。
「アーン…。」
始めは笑顔だった。
「アーン…。」
段々と不機嫌になる。