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戦場に響く鈴の音
第35章 思惑
そんな女を手に入れたというのに、夢物語に現を抜かし、女の為だと言い訳をして女を蔑ろにしてる自分が情けない。
「愛してる…。誰よりも鈴だけを…。他は何も要らぬ。」
何度、口にした言葉かわからない。
ただ、繰り返しにしかならぬ言葉を鈴に伝えなければ二人の繋がりを失いそうで怖くなる。
琴へ視線を向け、俺の方を見ようとしない鈴に不安を感じる。
必死だった。
鈴を振り向かせのだと鈴の着物の袂へと手を滑り込ませてまで気を引こうと躍起になる。
「神…路…。」
鈴が肩を震わせる。
俺の指先が柔らかな山を掴む。
鈴の手がそんな悪戯を止めようと俺の腕に添えられる。
「俺を拒むな…。」
真っ赤に染まる鈴の耳に口付けをして懇願する。
「だって…。」
ここは汐元の屋敷だと鈴が言う前に
「失礼を致します。」
と屋敷の女中が部屋の戸の向こう側から声を掛けて来る。
チッ…。
思わず舌打ちをすれば、敏捷な鈴は素早く俺から離れて乱れた着物の袂を手直しする。
「何事か?」
戸を開けて女中に問えば
「よう…、待たせたみたいだな。坊っちゃん…。」
と今、一番、聞きたくない声がする。
「佐京っ!?何故、お前が庄城に?」
ニヤニヤとする垂れ目男から後退りをすれば、俺に垂れ目を見せ付けるように佐京がグッと顔を近付ける。
「大殿様のご命令だ。水野を連れて神で大事な坊っちゃんの護衛をしろとさ…。」
佐京は義父の過保護を鼻で笑う。
ここは汐元の領地…。
狂戦士と蘇国中で謳われた佐京を俺が使いこなせていないと知られれば、明らかに笑い者にされる。