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戦場に響く鈴の音
第35章 思惑
ここは汐元の屋敷だというのに、佐京の無法っぷりには冷静な雪南ですら我を忘れて刀を抜いてしまっている。
茂吉や与一は完全にキレた雪南に怯え、多江が床へとへたり込むのが目に映る。
黒崎の主として俺が場を諌めなければならないとわかってる。
だが、今の状況で佐京が黒崎である俺に逆らえば雪南を失うだけではなく、自分の家臣すら制御が出来ぬ嫡子だと蘇中に知らしめる事となる。
とにかく騒ぎを…。
収めようとする俺を鬼が笑いながら羽交い締めする。
『使えぬ家臣など殺し合いをさせれば良い。お前が望む世界を作りたければ邪魔な家臣など必要がない。』
家臣を諌める事が出来ない俺を鬼がせせら笑う。
悔しさに歯ぎしりをすれば口の中で鉄の味が広がる。
雪南に加担して騒ぎの元となる佐京を切るべきか?
そんな嫌な考えまでしてしまう。
パンッ!
手を叩く様な音がして、誰もがその音の方へと視線を向ける。
「痛え…。」
首を斜めにした佐京が目の前の鈴を睨んでる。
「鈴っ!」
鈴が佐京に平手打ちをした。
キレた佐京が鈴に仕返しをすれば、怪我だけでは済まなくなる。
慌てて鈴を佐京から引き離し、着物の袖で隠すように覆えば鈴は俺の腕を払い除け
「佐京、おっ父の命令で神まで行かねばならぬと言うのならば、主である神路に恥をかかせるな。もしも、まだ恥をかかせるつもりならば佐京は庄城に置いて行くと鈴からおっ父に伝える。そうなれば佐京は由の暁へ帰される事となる。」
と佐京に向かい平然と命令を下す。
毅然として堂々たる態度で鈴は佐京に接する。
「ああ、姫さんの言う通りだ。これ以上は坊っちゃんに恥はかかせねえよ。その代わり、姫さんは俺の為に琴を弾いてくれよ。」
先程とは打って変わったように佐京が大人しくなった。