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戦場に響く鈴の音
第35章 思惑
琴の前に座り込んでしまった佐京を尻目に雪南も刀を収める。
「俺らも、久しぶりに姫様のお琴が聴きたいっす。」
佐京と並んで茂吉や与一が座る。
あれだけ、しっかりしてたはずの鈴が俺の着物の袖を握り困った表情で俺を見る。
「神路…、どうしよう?」
もう夕刻時…。
しかも鈴の演奏では汐元に恥をかかせるのではないかと不安を見せて狼狽えている。
「何事か在られましたか?」
タイミングを見計らったかのように汐元が俺の部屋を覗き見る。
「申し訳ごさいません。我らに追い付いた家臣達が鈴の琴を聴きたいと騒ぎを起こしたもので…。」
既に騒ぎは収まったと汐元に頭を下げる。
「今の鈴では汐元様に恥をかかせてしまうからと言い聞かせたのですが…。」
琴の前に並んで座る佐京達を視線で指せば、汐元がフフフと意味あり気に笑い出す。
「ここは庄城…、商人の街…、ご存知でなかったのですか?この冬に天音を渡る船に乗った商人の噂を…。」
汐元が勿体ぶった話をする。
「噂とは?」
「天音湖に流れる琴の音…、金を払う価値があると…。」
「鈴の音にでありますか?」
「商人達は新婚である由の姫が弾いてると思う者が多かったようですが、神路殿がここへ鈴殿を連れて来たのを確認して理解を致しました。価値があるのは鈴殿の琴の音だったのだと…。」
「鈴は…、下卑た生まれだからという意味ですか?」
警戒する俺を汐元は笑い続ける。
「神路殿は何やら誤解をされておるようですな。音楽の歴史を知ればその誤解も解けましょう。遥か昔、音楽とは雅な一部の階級を持つ者だけに許された特権だったのですよ。」
貧しい者に音楽を奏でる暇など存在しなかった。