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戦場に響く鈴の音
第35章 思惑
その小さな背中が一回り大きく見える。
まるで戦場へ向かう兵士のようだ。
鈴を眺める俺の横へ佐京が並ぶ。
「夢ばかりを追い続ける坊っちゃん達よりも、あの小さな姫様の方が余程に肝が据わってるな。」
垂れ目がニヤリといやらしい笑いを浮かべれば、その眼を殴り付けてやりたい衝動が湧く。
「この先へ付いて来るつもりならば俺を坊っちゃんと呼ぶな。」
「この俺に…、狂戦士から殿と呼ばれたいのなら…、俺を従えるだけの力を付けろ。」
夢物語を語ってるうちは殿とは呼ばぬと言い放ち、鼻歌を歌いながら佐京が鈴の後を追う。
「黒崎様…。」
佐京を切って良いかと殺気を放つ雪南が俺に寄り添う。
「今は捨て置け…。」
「しかし…。」
「狂戦士は大城主にしか従わぬ。御館様のような漢にしか、あれが扱えぬ事くらいわかってる。」
「その狂戦士が羽多野の嫡子…、後に黒崎様の家臣となると…、私は絶対に認めはしません。」
頭でっかちな雪南は簡単には扱えぬ佐京を黒崎の一門から追い出すべきだと俺に進言する。
力が無いから狂戦士を扱いきれぬ。
力が無いから狂戦士を利用しなければ生き残れない。
俺はその程度の存在なのだと佐京が力の差を見せつける。
広間では佐京の為に用意された女子達が佐京を取り囲み酒を佐京の盃に並々と注いでる。
佐京の姿を見ただけで急ぎ汐元が呼び寄せた女子達…。
「いやいや…、かの佐京殿が御依頼される注文はどれも一級品ばかり…、一端の商人達の中でも気を緩める事が許されぬ取引相手だと名が知れ渡っておりますぞ。」
狂戦士を前にして、大領主である汐元までもがひれ伏する。
「一級品も何も…、俺は女と酒しか注文してねえよ。」
ゲラゲラと下品に笑う佐京の笑い声だけが汐元の屋敷中へ響く。
このままでは、いつまでも狂戦士に保護されているだけの坊やのままなのだと見えない佐京の力強い手で俺の頭はずっと押さえ付けられていた。